動物由来感染症

人と動物、どちらにも共通する感染症『動物由来感染症(人獣共通感染症)』があります。
 動物由来感染症には、ペットから感染するものもあります。ペットは感染しても軽い症状で済んだり、そもそも症状が出ないこともあるため、知らないうちに飼い主が感染してしまうのです。
 自分自身のためにもペットのためにも、感染症の知識をつけておきましょう。
 また、ペットの定期検診を受ける等、日常の健康管理と併せて、ヒトへの感染防止に努めましょう。

ここで紹介する感染症は、動物由来感染症のごく一部です。より詳しく知りたい方は、こちらのホームページをご覧ください。

動物由来感染症(厚生労働省)(外部リンク)

寄生虫性疾患
  • ノミ、マダニ

吸血性の外部寄生虫です。寄生数が多いと大量に吸血されて貧血になります。また、痒みや痛みが大きなストレスとなる他、様々な感染症を媒介します。(例:マダニが媒介するSFTS)
 犬猫は、月1回の外用薬(スポット)または飲み薬で予防ができます。

細菌性疾患
  • レプトスピラ症

保菌動物(主にネズミ)の尿で汚染された水や土から、経皮または経口感染する細菌感染症です。水辺のレジャーで感染することが多く、犬と一緒にキャンプや川遊びをする家庭でしばしば発生します。
 感冒様症状のみで軽快する軽症型から、黄疸、出血、腎障害を伴う重症型まで多彩な症状を示します。潜伏期は5 ~14 日間です。
 犬の場合は8種以上のワクチンで予防可能ですが、レプトスピラ症には様々な型があり、感染した型がワクチンに入っていない型だった場合は発症する可能性があります。

  • 猫ひっかき病

猫に咬まれたり引っかかれたりすると感染する細菌感染症です。世界中のほとんどの飼い猫が感染していますが、猫に症状が出ることはまれです。
 3~10日程度後に、咬まれた部位に赤く、痛みのない隆起ができ、その後、付近のリンパ節が痛みを伴って腫脹します。場合によっては、発熱、頭痛、食欲不振などの症状が起こりますが、通常、予後は良好です。

  • オウム病

クラミジアに感染した鳥のフン(乾燥し、粉になったもの)を吸い込むことで感染する細菌感染症です。噛まれる、口移しで餌を与える等でもまれに感染します。
 1〜2週間の潜伏期間の後、急激な高熱と咳嗽で発症します。軽症の気道感染から、肺炎や髄膜炎まで多様な症状があります。
 鳥は保菌していても一見健常です。弱ったときやヒナを育てる期間に排菌しやすく、国内での感染源の60%はオウム・インコ類です。

ウイルス性疾患
  • 狂犬病

狂犬病ウイルスを保有する動物に咬まれる、引っかかれる等して感染するウィルス疾患です。地球上全ての哺乳類が感染し、一度発症すると治療方法はありません。今でも全世界で毎年5万人が死亡する恐ろしい感染症です。狂犬病を疑う動物に咬まれた場合、すぐに暴露後予防接種を受け、発症を防ぐ必要があります。
 1ヶ月~数年という長い潜伏期間の後、頭痛、倦怠感、筋痛、疲労感、食欲不振、悪心・嘔吐、咽頭痛、空咳等の感冒様症状ではじまります。その後、脳炎による運動過多、興奮、不安狂躁、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作等の筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止で死にいたります。
 この恐ろしい病気の発生を防ぐため、日本では『狂犬病予防法』により、全ての犬の市町村への登録と、狂犬病予防注射の接種が義務付けられています。
 犬を飼っている方は、必ず登録と予防注射をしましょう。

狂犬病とは(厚生労働省)(外部リンク)

  • SFTS(重症熱性血小板減少症候群)

マダニが媒介するウィルス性疾患で、西日本から徐々に全国に感染が広がっています。
 SFTSウィルスを保有するマダニに刺される、発症している動物と接触する等で感染が成立します。ペットでは猫の感染が多く、死亡率も非常に高いです。発症した猫の飼い主や、猫を診察した獣医師も度々感染します。
 6日~2週間程度の潜伏期の後、主な症状として発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)が現れます。時に、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などを伴い、人間での致死率は10~30%です。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について(厚生労働省)(外部リンク)

真菌性疾患
  • 皮膚糸状菌症

皮膚に真菌の一種である糸状菌が感染し、発疹、鱗屑、かゆみ、脱毛等を引き起こします。若齢・高齢の動物や免疫力の落ちた動物に多く、好発部位は耳、目、口の周り、足先、尾の付け根等皮膚の柔らかい部分です。人ではほぼ全ての部位の皮膚で感染が起きます。
 内臓や血液中に広がることはありませんが、再発しやすく、治療には長期間の投薬を必要とします。

犬猫の命にかかわる感染症

ペットがかかる感染症の中には、命に係わるものも多くあります。
昨今の獣医療の進歩により、ワクチン等で対策可能な感染症も増えてきました。ペットの健康を守るため、予防医療を受けさせましょう。

犬の感染症予防
  • 狂犬病予防注射

日本では『狂犬病予防法』により、全ての犬の市町村への登録と、狂犬病予防注射の接種が義務付けられています。必ず登録と予防注射をしましょう。

  • 混合ワクチン(コアワクチン4種)

犬の生命を脅かす代表的な感染症は、1本の混合ワクチンで予防できるようになっています。その中でも、生活環境に関わらず接種した方がいいものを『コアワクチン』といい、犬では4種の感染症が含まれます。

犬パルボウイルス感染症

犬ジステンパーウイルス感染症 犬伝染性肝炎(犬アデノウイルス1型)

犬伝染性喉頭気管炎(犬アデノウイルス2型)


 コアワクチン以外のワクチンは『ノンコアワクチン』といいます。お住まいの地域や暮らし方に応じて、かかりつけの動物病院と相談しながら選択するとよいでしょう。
 ※犬で一般流通しているワクチンは5種以上です。

  • フィラリア検査

フィラリア(犬糸状虫)とは、血管内、主に心臓~肺動脈に寄生する寄生虫です。血液中で成長したフィラリアが肺の血管に詰まるなどし、発咳、呼吸困難、腹水、血色素尿、心嚢水貯留などの症状から突然死に至ります。感染が判明した時点では手遅れになっていることも珍しくありません。
 蚊が媒介する寄生虫で、蚊が発生する時期(最低気温が10℃以上ある時期)は常に感染のリスクがあります。蚊が発生し始めてから1ヶ月後~蚊がいなくなってから1ヶ月後まで、月に1回の予防薬投与を継続する必要があります。熊本における予防期間の目安は5月~12月です。(※実際の予防の際はかかりつけの動物病院の指示に従ってください。)
 予防薬も、錠剤や注射から、お肉やクッキー等のおやつタイプまで多様な選択肢があるので、かかりつけの動物病院と相談しながら選んでください。
 また、万が一フィラリアに感染していた場合、予防薬を投与してしまうと、フィラリアの死骸が原因のアナフィラキシーや毛細血管の塞栓症が起こります。毎年、最初の予防薬投与の前に血液検査を行い、感染していないことを確認しましょう。

  • ノミダニの駆除

犬は散歩等で頻繁に外出するので、ノミダニ予防は非常に重要です。特にダニは、草むらを通過する際によく犬を刺します。
 月1回の外用薬(背中に垂らすスポット薬)や飲み薬(おやつタイプのものもあります)等で予防してあげましょう。

猫の感染症予防
  • ウィルス検査(FIV(猫免疫不全ウイルス感染症)、FelV(猫白血病ウイルス感染症))

FIV(猫免疫不全ウイルス感染症)とFelV(猫白血病ウイルス感染症)は非常に感染力が強く、全ての猫で検査が推奨されています。
 FIVは猫エイズとも言われており、猫同士の喧嘩が主な感染経路です。人間のエイズ同様、最終的には著しく免疫力が低下して、感染症や腫瘍等で死亡します。
 FeLVは母猫からの水平・垂直感染、感染猫との同居、猫同士の喧嘩が主な感染経路です。発症するとリンパ腫、白血病、血球減少症が起こります。
 どちらも治療法のない感染症で、特に複数飼いの場合は、陰性の猫に感染させることがないよう気を付けなければいけません。新たな猫を迎える時は必ず検査をしましょう。
 なお、陽性であっても、1匹で飼う、陽性の猫同士で飼うなど、陰性の猫との接触に気を付けながら飼う分には問題ありません。中にはあまり症状が発現せず、長生きしてくれる猫もいます。

  • 混合ワクチン(コアワクチン3種)

猫の生命を脅かす代表的な感染症は、1本の混合ワクチンで予防できるようになっています。その中でも、生活環境に関わらず接種した方がいいものを『コアワクチン』といい、猫では3種の感染症が含まれます。

猫ウイルス性鼻気管炎

猫カリシウイルス感染症

猫汎白血球減少症


 コアワクチン以外のワクチンは『ノンコアワクチン』といいます。お住まいの地域や暮らし方に応じて、かかりつけの動物病院と相談しながら選択するとよいでしょう。

  • ノミダニの駆除

完全室内飼いをしていても、猫は常に脱走の危険があります。屋外に出てしまった猫がネコノミを家の中に持ち込んでしまうと、駆除は非常に大変です。
 月1回の外用薬(背中に垂らすスポット薬)等で予防してあげましょう。